「絶滅速度 1年に4万種」のウソ
「1年に約4万種の生物が絶滅している」なんて話を聞いたのは、1年以上前の話。だから、あれから4万種以上の生物が絶滅したんだなあ、なんて感傷に浸っている場合ではないみたい。
どうやら、たいして根拠のない数字のようです。
その話を聞いたときに書いた記事がこれ、
私が思ったのは、4万種絶滅していても、新たに4万種発生していたら問題ないんでしょ、現存する種の推移と、発生した種の推移のデータもほしいなあ、ってことでした。
でも、問題はそんなことより、この4万種/年という数字が、そもそも根拠のないものだという点。
上記記事のコメントでもらったのですが、この本↓の中での指摘では、
毎年四万種の絶滅という推計は、もともと1979年にマイヤーズが出したものだ。
(中略)
そしてここで議論の肝心要な部分がやってくる。
下記はマイヤーズ氏の著書を引用した箇所。
“だがこの数字ですら少なく思える。(中略)仮に、この人間による自然環境の扱いの結果、今世紀最後の25年間で100万種の絶滅が目のあたりにされると想定しよう─あり得ない見通しではまるでない。これはつまり、25年にわたって計算すると、一年あたりの平均絶滅速度四万種、あるいはむしろ1日100種以上という計算になる。”
これがマイヤーズの議論のすべてだ。100万種が25年間で絶滅するとすれば、、つまりは年に四万種となる。まったくの循環論法だ。
「25年間で100万種の絶滅が目のあたりにされると想定しよう」って、ただの想定かい!根拠はどこ?
ということで、上記で引用されていた、マイヤーズ氏の著書↓をチェックしてみました。
沈みゆく箱舟―種の絶滅についての新しい考察 (1981年) (岩波現代選書―NS)
まず最初に「100万種」なる数字が登場するのは、「第1章 序論」の部分、
今世紀末までには、同じようにわれわれは100万種、もしかしたらさらに多くの種を失うであろう。それらの生物種は、ごく少数のものを除いて、人間の手によって絶滅させられるであろう。
ここは、「第1章 序論」の冒頭の見出しのような部分なので、根拠などは示されていませんが、本文にもっと詳細があるのだろうと読み進めると、すぐ3ページ後(「絶滅の速度」という項)に、
このように自然環境に人間の操作が加えられる結果として、今世紀最後の25年間に100万種が絶滅するのを目のあたり見ることになると考えてみよう。これはけっしてありそうもない予想ではない。これは、25年の間に平均して年に4万種、すなわち1日に100種以上ずつの絶滅速度で事が進行するということである。
これは、ビョルン・ロンボルグ氏の「環境危機をあおってはいけない」で引用されていた部分ですね。
やっぱり何回読んでも、単なる仮定の数字のようです。例えば、「私の年収が1億円だと考えてみると、1日あたり27万円の収入があるということである」という表現には何のウソもありません。(そして大した意味もありません)
このまま何ら根拠は示されないまま、「第2章 種の数はどれほどあるか」の最後の部分で、こう述べられてます。
この本ですでに明らかにしたように、この世紀の最後の25年のうちに100万種にも達する激しい種の絶滅をわれわれは目撃することになるであろう。
なんと「すでに明らかにした」ことになっている!
ノーマン・マイヤーズという人物はちょっと曲者のようですね。仮定をいつの間にか事実のように扱うくせがあるらしい。
まあ、マイヤース氏にはマイヤーズ氏なりの信念とか確信があるんでしょうから、許せないこともないんですが(「なるであろう」という表現だし)、この数字を他者が引用するのは不適切な気がします。
また、前述の記事のコメントで教えてもらったのですが、環境省の環境白書にもこの数字が使われています。
一方で、人間活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで進んでいることが問題です。1975年以降は、一年間に4万種程度が絶滅しているといわれています。
そして、わざわざこの怪しい数字を使った棒グラフまで掲載しています。
これを見た人は、ここに表現されている数字が「実測値」であるかのように勘違いしてしまうんじゃないでしょうか。グラフの期間は2000年までになっているし。
実際は、30年以上前に書かれた本のデータであって、検証さえできていないもの。そして人類は、現存する生物種が何種類なのか、そのうち何種類が絶滅したのかという数字さえつかめていないんです。予測どころか、現状を知ることさえ困難なのです。こんな状態であるからには、具体的な数値をあげる際にはそれなりに気を使ってほしいと思うんですが。
ねえ?環境省さん。
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