広辞苑よりも広辞林の方が歴史が古い
ちょっと前にテレビで『アヒルと鴨のコインロッカー』っていう映画やってました。
いろんな映画を、映画館で見るでもなく、レンタルDVDを借りるでもなく、テレビで見るっていうのはなかなかお勧めで、なんたって、ハズレを引いても損しない。
よっぽどつまらないと、時間を返せ、って気分になるときもありますが、そこまでひどいのはそんなにはない。途中でやめてもいいし。
で、この『アヒルと鴨のコインロッカー』は当たりでした。
2011年度 上半期「何気なくテレビで見たらすごく良かった映画大賞」に選んでおきましょう。
で、ちょっと話は変わって、こんなシーンがあります。巻き込まれキャラの主人公の椎名(濱田岳)が、河崎(瑛太)から、書店を襲撃し広辞苑を奪うという計画をもちかけられます。
別行動で、計画を実行後、車で落ち合った二人の会話。
椎名「で、あれは?広辞苑は?」
河崎「楽勝だ」
(河崎:車の後部座席を指さす)
(椎名:後部座席を見る。二度見する)
椎名「これ広辞苑じゃない。広辞林だよ」
(沈黙)
河崎「そうか」
椎名「ま、似たようなもんだけど」
なんかちょっと、おかしみのあるシーン。
原作の小説だとこんな感じ。
「広辞苑は?」
「ばっちりだ」彼は、抱えていた分厚い本を僕に向けた。
暗闇に目を凝らし、その表紙を見て僕は声を上げる。「『広辞林』だよ、それ。『広辞苑』じゃない!」
河崎は驚いたように、本を持ち直す。背表紙をじっくり見て、「そうか」と、疲れた声を出した。
このおかしみは、広辞苑の方がメジャーであるから成立してます。広辞苑と広辞林が逆だったら、成り立たないですよね。
広辞林を知らない人は、広辞苑に似た名前を冠した架空のバッタモンみたいに思ってしまう人もいるかも。
で、もちろんそんなことはなく、三省堂の『広辞林』は伝統ある国語辞典で、しかも岩波書店の『広辞苑』よりも古い歴史を持っています。
広辞林の前身の『辞林』は1907年に発行されて、『広辞林』(当時は旧漢字で『廣辞林』)と改名されたのは1925年。(参考:三省堂-広辞林 第六版)
一方、広辞苑の前身の『辞苑』の発行は1935年、『広辞苑』と改名されたのは1955年。(参考:広辞苑 - Wikipedia)
なので、広辞苑の方がむしろ後発組。しかも、広辞林はかなりメジャーだったようで、
三省堂 - Wikipedia
しかし、戦前に発行された『廣辭林』は、全国のほとんどの中学生が使っていたというほどヒットした国語辞典で、現在でも古書店で簡単に入手できるほどである。
とのこと。
しかし、三省堂は「『広辞林』の改訂では『広辞苑』に対抗できないと認識し」、28年間をかけて編纂した大辞林に主軸を移した模様で、広辞林は1983年の第六版以降は改訂が行われていません。(参考:国語辞典 - Wikipedia)
三省堂のサイトにも「品切」と書かれていたし、絶版状態なんでしょう。なので、たぶん書店に買いに行っても(強盗に行っても)、映画のようには入手できないでしょうね。
ちなみに、河崎が『広辞苑』と『広辞林』を間違えたのには理由があって、ちょっとした伏線になっていたりもするんですが、それはまた別のお話・・・
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