伊藤整『得能五郎の生活と意見』を旧漢字で読む
伊藤整の『得能五郎の生活と意見』を図書館で借りたのですが、とても古い本でした。(昭和28年発行)
定價 二四〇圓
地方定價 二五〇圓
地方定価なんていうシステムがあったのか。そして、この「圓(=円)」は「三遊亭圓生」とかで見たことあるやつだ。
もちろん本文も旧漢字(旧字体って言うのかな)が使われています。↓こんな感じ
一 空地耕作
得能五郎は、隣の室で食事をする二人の子供の物音で目が覺める。ほら、エプロンをしないで食べている人はだあれ、とか、おみおつけを殘してはいけません、などという里子の聲に混じつて、茶碗の音がし、やがて、忘れものはありませんか、という聲に送られて、行つて參りまあす、と玄關の硝子戸をぴしやんとはげしく閉める。そして玄關から三尺ほどしか離れていない門のそとの敷石をわたつてゆく二年生の一郎と一年生の二郎の、かたことかたことという小さな靴音が耳に入るようなときは、寢足りた氣持で次第に目が覺めて來ている。
この一段落で、旧字体が6箇所ありました。
覺める ・・・ 覚める
殘して ・・・ 残して
聲 ・・・ 声
參り ・・・ 参り
玄關 ・・・ 玄関
寢足りた ・・・ 寝足りた
氣持 ・・・ 気持
なんとか読めそうな感じ。「聲」とか「關」はちょっと厳しいですね。前後の文脈から何となく読めはしました。
これ以外にも、異体字がありますね。
IMEパッドで探しましたが見つかりませんでした。どうやら、異体字には文字コードを割り振らないのが原則のようです。
文字集合と異体字
JIS X 0208などの文字集合では基本的に情報交換用の文字を示すのが目的であるため、異体字ごとにコードポイントを割り振ったりはしないことが原則である(ただし固有名詞対応の必要性などから、複数の異体字に個別のコードが与えられているケースが多数見られる)。そのため、コンピュータ上で表示される文字はフォントを作る場合にその一例として採用した文字にすぎない。
空
食
音
送
硝子戸
トポロジカルには(?)同じなのですが、線の方向が変わっているようなケースですね。現在の「食」の三画目や、「音」の一画目は縦方向に近いのですが、異字体では横方向に近いですね。ただ単にフォント的なデザインかもしれませんが。
あとは、「/」が「\」に変わったようなケースが多いみたいです。
昔の人はこう書いていたんだろうか。知っていたら教えてください to昔の人
↓あと、促音の小さな「っ」は、「つ」って書いてたんですね。
混じつて
行つて
ぴしやん
こんなそんなで、読むのは大変かなと思っていたのですが、慣れてくると、なんてことないですね。
字体の類似性と、前後の文脈で、何とか読めるものがほとんどでした。
↓形がシンプルになった系
會・・・会
團・・・団
續・・・続
「續」なんかは「讀賣新聞」の類推から分かりますね。パーツとして「賣」→「売」に置き換わったんだなあという。
あと、全体の形は変わってしまっているんだけど、よく見ると一部が取り出されているというもの。
↓一部が抜き出された系
豫・・・予
醫・・・医
處・・・処
↓どっちでもない系(なんだその分類)
體・・・体
辯・・・弁
最後のはちょっと難しかった。
「辯護士」という単語が出てきて、○護士といえば、看護士?
介護士? でも、そんな言葉は当時は使われていなさそうだし、と。
前後に「醫者(医者)」なんて言葉があったので、あぁ、って感じで気付きました。
なんかパズルを解くみたいで面白かったですよ。■
[2011年12月10日追記]
実は、この本にはちょっとしたミステリーがありまして・・・
本の背表紙から謎のメッセージ?
■
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