ビートたけしの落語「野ざらし」(全文書き起こし)
ビートたけしが落語を披露したテレビ番組が、12月30日に放送予定、というのを書いたのが下記ですが↓
ビートたけしが落語を披露 立川談志に「聞いてくれ」
ついに放送されたのでチェックしました。
TBS系のサイトには、「突然落語を披露」とか、「突然そのネタをやり始めて」とか書いてありましたが、というより、制作者側の意図としては、なんとかビートたけしに落語をやらせたい、でも、たけちゃん照れ屋だから、「はりきって、どうぞ」みたいな雰囲気じゃ、やってくれなさそうで、苦労して、演ってもらえるように誘導した感じでした。
鶴瓶さんの促し方が絶妙でした。
とりあえず座ってみて、みたいな感じで、特設の高座に座らせて、しばらくは対談して。
釣瓶さんが「野ざらし」の内容にちょっと触れる。
釣瓶「魚釣りって静かにせな アカンでしょ それが その男が行くときに 色んな陽気なヤツで ホントに女釣ろうとするんですよ しゃれこうべ釣って…」
って感じで、ものすごく、ざっくりと言っちゃおうとするんです。でも、これじゃ、「野ざらし」の落語を聞いたことのある人じゃないと、ピンとこないでしょ。
で、たけちゃんが、たまらずに話を横取りして、ネタを最初から始めたという。
釣瓶さんもうまいですよね。わざと端折りすぎた感じで話して、たけちゃんの「きちんと伝えたい」っていう気持ちをくすぐるという。ほんと、照れ屋は扱いがめんどくさい。
そんな流れなので、
↑横に付き添いがいるという変な感じの口演でした。
で、全文書き起こしをここに載せるのですが、「野ざらし」を聞いたことがないという人は、正式なものを聞いた後に、対比しながら読むと面白いんじゃないかと。
↓番組で触れていた、三代目 春風亭柳好の「野ざらし」
ビートたけし版は、番組の構成上、時間の都合もあるから、かなり省略してあるし、落語って読んで面白いか?ってところもあるんで、まずは、音声or動画で楽しんで、そのあと考証するという流れがいいんではないかと。
では、ビートたけしの「野ざらし」をどうぞ↓
ストーリーはね 隣に隠居がいてね
鶴瓶:やってえな
ストーリーをちょっと説明 隣に隠居がいてね
夜中に八つぁんてのが 隣で女の声が聞こえて
「おかしいな 隠居は1人なんだけど」って
商売道具のノミで開けると 女が見えて
「あれ?」って言って 明くる日 「おーおー」って言って
(八つぁん)「隠居!」
(隠居)「どうしたい?」
「どうしたいじゃねえ このやろう 人は見かけによるぞ」
「よらないんじゃねえのか よるよ このやろう 昨日の夜中 呼んでたな デリヘルか?」
「何言ってんだ お前」
「年の頃だな 8歳 9歳」
「10つけてくれ 俺 変態じゃねえんだ」
「19だ 文金の高島田 それ着て座ってたろ」
「お前 あれ見たかい」
「見たじゃねえよ 夜中じゅう見ちゃって 痛くなっちゃって膝が どうしたんだ それ」
「その話をすっと怪談じみた話になるから ちょっとな」
「えッ 怪談? それダメだ俺 怖い話はダメ 俺 怖い話聞くと 手水場行けなくなっちゃうんだ こないだ怖い話聞いて 夜中に案の定 便所行きたくなって しょうがねえから行ったんだけどね 真冬で戸が凍っちゃって しょうがねえから (小便を)かけて開けて 中入ったら何しに来たか分かんなくなっちゃった」
「汚いな お前は」
「そうじゃねえんだ このやろう ジジイ」
「話の筋だから聞いといで おまえも知っている通り 私は釣りが好きだ」
「ああ 知ってるよ」
「昨日今日と向島の三囲あたりでやっていたんだが どうも食いが悪いってんでなあ 鐘ヶ淵あたりまで行ったかな」
「おう」
「でもな 食わないときは食わない むろん釣れはしない こういうときには早じまいがよかろうってんで 釣りざおに糸を巻きつけていると 墨田多聞寺の入相の鐘が 陰(いん)にこもってものすごく ゴーンと鳴ったな」
「そいで?」
「あれ 怖くないの?」
「怖くないよ 多聞寺の鐘がゴーンって鳴っただけだもん」
「普通 そこで怖がるぞ」
「多聞寺の鐘が陰にこもって ニャーオ それは怖いよ」
「多聞寺の鐘がニャーオっていうか 四方(よも)の山々 雪解けて 水かさ増さる大川の 上げ潮みなみで 岸をあらう水の音がザブーリ ザブリと 風が吹いて枯れ葦がサッと揺れると そっから出た!」
「何が?」
「あれ? また驚かねえか お前は」
「何が出たの?」
「何が出たって カラスだよ」
「ヒエーッ カラス!? カッ カッ カラス! コケコッコー!」
「バカヤロー わざとらしいんだ バカヤロー」
「で どうしたの?」
「骸骨があったんだよ」
「骸骨 どうした?」
「だからね 野にさらされては浮かばれまいと その骸骨をだな 回向(えこう)してやったんだ」
「骸骨に? 変なことしやがって」
「変なことじゃないよ」
「だって骸骨置いて こっちから ヤッホーかなんか言ったの?」
「そりゃ おまえ こだまだろ 回向とこだまは だいぶ違うだろ」
「じゃあ何だ?」
「野を肥やす 骨に形見のススキかな 生者必滅会者定離 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏と腰につるした瓢の酒をかけてやるとだな 骨が何気なく赤くなったような気がしたんだ」
「ほほう それは昨日かい 昨日 隠居のとこ来てたのは その骸骨に酒かけてやったら お礼に来たのか」
「そうだ」
「ふ~ん ちょっと俺も行ってこよう 骸骨出てきて 酒かけりゃ 女がくんの? 待ってました 行こう さお貸せ」
「ダメだ」
「さお貸せ 酒も貸せ てめえ 保険かけて殺すぞ」
「お前は荒いな」
「いいんだよ コノヤロー 骸骨に酒かけて女が… 待ってました おお~ いるね おい 朝からいるね じじい スケベ おうッ スケベ!」
(釣り人たち)「なんか上で スケベってどなってる」
「分かってる てめえらの魂胆は 釣れるか?」
「何が?」
「骨(こつ)だよ 骨 骨 釣れるか? 骨 とったか コノヤロー 若いのか?新造(しんぞ)か? 年増か? スケベ」
「上でうるさいよ あの人」
「いいから どけどけ! チャチャン チャラスカ チャラスカ チャン チャン チャチャン あとから来て 先釣っちゃうんだ ♪~あたしゃ年増が~ええ~ええ~♪~いいんです よ へへ~」
「変な人 来ちゃった ダメだな こりゃ」
「よっこいしょっと」
「餌つけたら…」
「餌なんかどうだっていいんだ 餌なんかどうだっていいの そのうち鐘がゴーンと鳴りゃ… ♪~鐘がゴーンと鳴りゃ 上げ潮 みなみさんは ♪~カラスが パッと出てこなさんのさ ♪~骨があるさ~さい あッ スチャラカ…」
「しょうがねえな こうやっちゃ ダメだよ」
「魚が逃げる? 魚が耳あんのか コノヤロー ある? 見せろ証拠 ♪~そのまた骨にとさ 酒をばかけりゃさ ♪~骨がべべ着て こらさのさ ♪~嫁に来るさ~いさい あッ スチャラカ スチャラカ」
「しょうがない やめてよアンタ」
こういうネタです
けっこう、たけちゃん色が入っているんですよね。
「このやろう」「ばかやろう」が多いとか。落語っぽくない。
ものまねの人は、「ダンカン、ばかやろう」って言ってしまうけど、実は本人が言っているのは見たことない的な。違うか。
「デリヘルか?」「保険かけて殺すぞ」とか、ツービートの漫才みたい。
八つぁんが、意外に恐がらないっていうのも、オリジナルとは変えてある部分で、他の噺家の「野ざらし」を聞いたことがあると、その違いが楽しめるという。これがたけちゃんの手によるアレンジがどうかは不明ですが、私が聞いたことがある他のものは、素直に恐がるバージョンばかりでした。
あと、女性の年齢のくだりで、
「歳の頃は、十六,八」
「それを言うなら、十六,七か、十七,八だろ」
「『しち』は先月流れた」
っていうのがオーソドックスなのですが、ここは聞き飽きているだろうと、たけちゃんは「十」を抜いてみるというアレンジ。
たしかに、「8歳、9歳」はまずいだろ。でも、「十六,七」も微妙ですけどね。何せ、昔の話なんで。
なので、「あたしゃ『年増』がいい」っていうのも、今の「熟女」とは違いますよ。
落語で出てくる「年増」は二十歳前後から三十前くらいを想像するのが、適切なようです。
江戸時代には20歳前後を年増、20歳を過ぎてから28、9歳ぐらいまでを中年増、それより上を大年増といった。
なので、「年増が好き」的な発言をする際は、文脈をしっかり意識しないと、あらぬ勘違いをされて、大変なことになるかもしれません。別に、ならないでしょうけど。
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