直木賞選考委員連続殺人事件 筒井康隆「大いなる助走」
↓このエントリ
を書いた時に、いろいろ検索してて、知った小説。
1979年の作品です。
ウィキペディア(筒井康隆 - Wikipedia)に代表作としてあげてあったものと、発表時期を比較してみると、
『時をかける少女』(1967年)
『日本以外全部沈没』(1973年)
←ココ
『虚人たち』(1981年)
『夢の木坂分岐点』(1987年)
『文学部唯野教授』(1990年)
『わたしのグランパ』(1999年)
こんな感じ。
読みたいと思ったきっかけは、直木三十五賞 - Wikipediaに、こんなことが書いてあったから、
(選考委員の知識や好みから、SF作家は不利だというのが通説になっている)
この様な風潮によって受賞を逃した作家には小松左京・星新一・筒井康隆・万城目学などがおり、中でも不利とされるSFを専門範囲とし三度にわたり落選の憂き目を見た筒井は、後に『別冊文藝春秋』において、直木賞をもじった「直廾賞」の選考委員たちが皆殺しにされるという、直木賞選考を批判的に風刺した小説『大いなる助走』を発表している。
ね、読みたくなるでしょ。
筒井氏はジャンルが良く分からないような、いろんな作品を書くから、どんな感じになっているのか想像がつかない。
ウィキペディアには「スラップスティック作品」と書いてあって、確かにドタバタ感とかコメディ感もあるんだけど、全体を眺めてみると、真摯なメッセージが込められているような気もするし。
そのへんを語りたいところですが、語るだけの理解力もないので、ただただ面白おかしく楽しめた中盤のあたりをご紹介、
文壇バーで、あるSF作家(主役でもなんでもないチョイ役)が編集者に絡んでいる場面↓
おれが候補になった時、なんて言やがった。駄目だよ。とれないよ。SFが賞なんかとれるわけけないだろう。くそ。今でもそう思ってやがるんだ。お前らみな、そう思ってやがるんだ。とれなくていい気味だと思っているんだろう。SFなんかで文学の伝統を破壊されてたまるかと思ってやがるんだ。
膳上は直廾賞の選考委員の一人。「群盲」(群像?)の編集者である牛膝(いのこずち)が、膳上に候補になった作家と作品の概要を説明している場面↓
牛膝は次の資料をとりあげた。「他には、ダークホースとしてこの中山光紀がいます。SFですが」
膳上はじろりと牛膝を睨んだ。「ぼくの眼の黒いうちは」
「絶対にSFには受賞させない。よくわかっております。しかしですね先生、これだけSFがもてはやされております現在、ここいら辺でひとりぐらいは受賞させておかないとちょっとまずいのでは。
下記は、選考会の場面↓
「すると『終末の大放浪』を積極的に推されるかたはないんですね」梅木は念を押した。「では、これを落していいんでしょうか」
「だってこれ、SFだろう」と鰊口冗太郎が言った。
「そう。SFですからな」膳上線引がにやにや笑いながら言った。
「SFだものなあ」と、雑上掛三次も言った。「落そうよ」
さっき、一応は残そうと発言した委員も、長老たちの意見に押されて落すことに同意した。
なぜSFだから落すのか誰も説明せず、その理由もよくわからぬまま「終末の大放浪」は落された。
三度(勝手に)ノミネートされ、三度落選させられた、筒井氏の怨念が込められているような場面です。
実は上記であげた場面て、ストーリーの本筋とはあんまり関係ないところだったりするんですよね。最初のSF作家は名前も出てこないし、主人公の市谷が文壇バーで彼を見かけるという程度。
そのあとの、『終末の大放浪』は、市谷ではない別の候補作家の作品だし。
でも、まあこういったところに、いろんなメッセージを埋め込むことができるのが、作家の特権なんでしょうねえ。
↓そして、表紙をよく見てみると・・・
表紙には、「張め。殺す。」、「この源」、「やいやい川〜郎め。死ね。」などの文字が(文春文庫版 181‐3)
全然話は変わりますが、筒井康隆氏の最新作がラノベ(なのか?)だったりするので、世の中分からないなあと。
とても読みたかったりするんですが(下記リンク先で第一章が読めます)、
筒井康隆『ビアンカ・オーバースタディ』第一章 哀しみのスペルマ Illustration/いとうのいぢ | 最前線
内容を見てみると、自治体の図書館では買ってくれなさそうだなあ。「哀しみのスペルマ」って、あんた・・・■
[2012年8月12日追記]
登場人物のモデルが気になったので検索していたら、「定説」なるものがありました↓
筒井康隆『大いなる助走』直廾賞選考委員のモデル
■
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